赤ちゃんは触るべからず

他人に干渉しないのが現代社会

故に赤ちゃんは触るべからず

朝日新聞朝刊(2015年10月18日)に掲載された、35才主婦からの投書が話題となっている。その内容は、1才半の娘と行ったフードコートで、知らない高齢男性が「かわいいね」と娘の頭を撫でようとしたというもの。その主婦は、とっさに娘に触られないように手で防いだのだが、もし触ろうとするにしても、せめてひと声かけてほしいというものだった。

いろいろと凄惨な事件が起きている昨今。悪意がなかったとしても、「かわいい」と言っていきなり赤ちゃんを触ろうとする大人が警戒されるのも仕方ないことだろう。しかし、 “ひと言声をかけてほしい”という母親の気持ちに、違和感を覚えた人もいる。

「そのおじいさんは、無言でいきなり触ってきたわけじゃないんですよね。“かわいいね”と声をかけられたら、その場の雰囲気で触ることまで伝わりませんか。わざわざ、“触っていい?”“いいです”“ダメです”なんてやりとりするほうが不自然じゃないですか」(神奈川県の主婦・38才)

親子関係に詳しい作家の石川結貴さんは「このひと言に時代が反映されている」と分析する。

「“触っていいですか?”なんてまるでペットみたいですね。でも、案外ペットと同じ感覚なのかもしれません。それは、“私の所有物に無断で侵入しないで”という考えの表れ。たとえば電車で隣の人のスマホ画面がちらっと見えたときに、“見るんじゃないよ”みたいな空気になることがありますよね。パソコンの普及とともに個人主義が強くなり、“個人の領域に侵入することへの拒否感”が強くなっている証なのではないでしょうか。変な人が増えているからといいますが、根底にあるのは“私の領域に勝手に侵入してくるな”という気持ちで、そうした気持ちが強くなっていると思います」

評論家の呉智英さんも、「子供の安全や衛生面の議論以前に、“個人に干渉するな”という問題」だと指摘する。

「農村部など、昔の共同体では、『○○さんはまだお嫁に行かないのか』『早く赤ちゃん産まないと』というやりとりは近所で当たり前の習慣でした。でも、他人の生活に干渉しない、されたくない、というのが近代の風習です。セクハラという言葉が生まれたのも同じこと。でも、共同体で育った高齢者は“子供は社会のもの”という意識が強いので、他人の領域に踏み込んでいく。その違いで、トラブルが起こってしまうということです」

※女性セブン2015年12月10日号

2015年12月6日